2019年4月19日(金)に開催した「新しい価値を提供する 製品意匠力アップセミナー」では、講師に妹島和世氏をお招きし、建築を中心とした環境との調和を目指したデザインにおける取り組みなどをご講演いただきました。
併せて、当社からも塗料やインクによる加飾を通じて、お客様の意匠力アップに貢献するための現在の取り組みをご紹介させていただきました。
目次
妹島和世氏 基調講演レポート
去る4月19日(金)に行われた「新しい価値を提供する 製品意匠力アップセミナー」に、プリツカー賞を受賞するなど世界的にも評価の高い、建築家・妹島和世さんが『環境と建築』と題して基調講演を行いました。国内外で活躍する日本を代表する建築家の講演だけに、会場となった東京デザインセンターガレリアホールは平日の午後にもかかわらず、満席となりました。
ダークカラーのスカート姿で登壇した妹島さんは、パソコンの前に座ると、まずシルバーに輝く電車の画像を投影します。こちらは妹島さんがデザインを手がけた西武鉄道の新型特急「Laview」で、外装には大日本塗料の「スーパーブライトNo.2000」が使われました。今回の登壇はこの塗料が結んだご縁、だと妹島さんはおっしゃいます。
妹島 「今日は『環境と建築』ということで話をさせていただくのですが、建築とはちょっと違いますが、まずはこの電車の話からさせていただきたいと思います。私にとって電車のデザインは初めての経験だったので、躊躇もあったのですけれども、建築をやっている者としてどういうことが考えられるのか。プロダクトとしてのデザインというのはやはりプロダクトデザイナーの方にかなうわけはないので、ちがうところから「これまでにない特急を作りたい、その特急に乗るということで新しい価値は生まれないか」と西武さんからお話をいただいたことについて考えてみようと試みました。それでリビングルームのような特急というのはどうだろうかと提案をしまして、実現したものに、この大日本塗料様のシルバーの塗装を使わせていただきました。
実は、以前車のデザインに声をかけていただいたこともあるのですが、車はすごく生産するものですから、なかなかうまくいかなくて辞めた経験がありまして、電車はどうだろうと思っていたのですが、やってみて驚いたのは、電車は建築以上に手作りっていう風なところがあって、そこに高度な技術とが組み合わさっている分野なのだなというのが分かってとても面白かったし、いろいろありましたが、本当に出来上がってよかったと思っています。
建築をやっている者として考えられることとして、ひとつはリビングルームのような、ある快適性を持てるものということと、もう一つはただ形がカッコいいというよりは、電車はいろんなところを走るので、その周りの雰囲気を映し出しながらそこに溶け込んで一緒に景色をつくっていけるものだったらいいなあと思っていました。
そのために外装というのが大変重要でして、出来上がってから「周りが写り込む」って言ったものですから、写ってないじゃないかってご意見もあったりしたのですけれども(笑)、私としては鏡みたいにびたっと写したいという意味ではなくて、むしろ自然の中に入れば自然の雰囲気がなにか写り込んでるっていう感じになるし、都市の中に入れば都市的なものが表れてくる。そういうようなものを実現したいなあということだったんですね。大きな窓や内装などもいろいろ調整しながら実現させていきまして、実際に作られたのは日立さんなのですが、構造的な限界とか、そういうところは三社の協力の中で出来上がっていきました。
最初は何社かのコンペだったのですが、先ず最初に私たちはこういう外壁にしたいんですという、建築で私たちがいいと思っているサンプルを持っていたんです。それを実現するのにまずアルミで作ったらどうかと。しかしその場合どうしても溶接でつないでいきますから溶接のあとを磨いて、消せるかどうか、或いはむしろ消えなかった場合はその溶接を、線を意匠として出していくという考え方ができるかを検討しました。他にフィルムを貼るというのと、塗装だというオプションが出ました。塗装もいろんなメーカーの塗装を比較したわけで、それぞれ特徴があるのですが、私たちが求めていた表状というのが、今回の塗装でした。これがとても良くて、初めは折角もともとアルミで作るのが日立さんの作り方だったので、それにもう一回何か塗るっていうのはもったいないとも思ったんですけど、どうやってもやっぱり溶接のあとをきれいに見せるというアイデアが考えつかなかったのでこの塗装を使うことにしました。実はこれはもっと写しこもうとすれば写るんですけど、そうすればするほどどうしても鏡面が強くなるから色が濃くなるので、どのくらい白っぽいままで雰囲気が写るかっていうのをグラデーションで検討しながら、最終的なものが出来上がりました。昔から建築でもこういうシルバー塗装ができたらいいなということを思っていたけれど、いつもできなかったことが本当にできるようになったので、そういう意味では驚きで、素晴らしいと思います。
いろいろな考え方がありますが私たちとしては、都市の中にいたら都市の中に座っているようだし、自然の中に入っていったら自然に囲まれているような。こちらの窓が大きいということは反対側も大きいので、何となく外と中の明るさがほぼ同じような感じになります。その代わり椅子はちょっと囲い込むように柔らかくおさえるような感じにして、最終的に実現しました。私としてはデザインチーム三社で、みんなで合言葉のようにしたものがある程度実現できたと思って、うれしく思っていますし、それを実現するために大きな役割を果たしたのが、このシルバーの塗装で、アルミの上に塗るのはもったいないと思いもしましたけれども、下地がきれいだからこそ、これだけきれいなものが実現できたのだと思っています。これを建築でもうまく使っていける方法を私としては何とか探りたいし、これからご相談をして可能性を見つけていければいいなと思っています」
続いて、ここからは建築の話に移ります。画面に映し出されたのは、妹島さんの代表作の一つでもある「Rolex ラーニングセンター」(ローザンヌ、スイス)の画像です。
妹島 「ここからは普通の建築の話になりますが、そういう、周りに溶け込むというのは私にとって重要なことで、もう30年以上同じようなことを言っていまして、それを最初の頃は『中と外をつなぎ合わせたい』とかそういう言葉で言っていたのですが、いろいろやってきて、建築が建築として孤立しているんじゃなく、風景の一要素になっていくのにどうしたらいいかという風なことを実現したいんだなあと。建築は人を守らなければいけないけれど、隔離するというよりはもうちょっと一緒にいられるような気持になれるっていうか、そういうのが快適と言えるのではないかと思っています。多様な人が一緒の場所にいるときに閉じ込められた場所というよりも、やっぱりさらに外に広がっている、環境の中に溶け込むような場所の方がそれぞれの人が快適に自分の居方みたいなものを探して過ごせる場所ができるんじゃないかなと思っていて、そういうものが建築にできる一つのことじゃないかなと私としては思っています。
これは2009年に作ったローザンヌのEPFLという大学のラーニングセンターなのですが、すごく大きなキャンパスの中にコンペを経てこれを作ったのですが、中層くらいでもよかったのですが私たちが提案したのは一層で、新しく学ぶ場所ということから、皆が出会える場所がいいのではないかと。そのためにはフロアが分かれているより一層の方が出会えるだろうということを提案しました。ただ一階建てだと大きな建物がべたっと広がってしまうので、建物を一部もちあげて、一階建てなのだけどとにかく中心にある入口までみんながアプローチすることができる、そして一度中心に入ってからみんなが好きなところに歩いていけるというものをつくりました。ただ、考えてみればこの建物っていうのは外に対してもっと手を差し伸べられるようなあり方があったのではないかという思いが残って、そこから方法をスタディしながら進めたのがこの10年です」
この後も妹島さんは、作品の画像を示しながら次々と、その意匠の意味や完成までの道のりなどについても細かく説明されます。ルーヴル=ランス(ランス、フランス)、なかまちテラス(小平市立仲町公民館・仲町図書館・東京都)、NISHINOYAMA HOUSE(西野山ハウス・京都府)、「荘銀タクト鶴岡」(鶴岡市文化会館・山形県)、Grace Farms(コネチカット、USA)、ボッコーニ大学(ミラノ、イタリア)、「ラ・サマリテーヌ」(パリ、フランス)、日立市役所新庁舎(茨城県)、大阪芸術大学、アートサイエンス学科 (大阪府)、ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館「Sydney Modern Project」(オーストラリア、シドニー)と、ご自身のプロジェクトについてたっぷりと説明されました。そして、最後となったのは、「犬島プロジェクト」(岡山県)です。
妹島 「これは犬島のプロジェクトといって瀬戸内海の島で展開しています。直島というのはよくお聞きになったことがあると思いますけど、福武總一郎さん(*ベネッセホールディングス名誉顧問)と安藤さん(*安藤忠雄・建築家)が30年以上前に始められて、10年くらい前から福武さんが直島からもう少し周りの島へ広げて行こうということで私にも声をかけていただいて、犬島という島の計画にかかわりはじめました。特徴としてはすごく小さくて、直径1キロくらい、周辺歩いても3キロなので、1時間もかからないで歩けちゃう。ゆるやかな勾配のあるとても魅力的な島です。2008年からアートプロジェクトというのに声をかけてもらいまして始めましたが、ここ3、4年はアートプロジェクトだけだともったいないなと思って、仕事っていうよりもうちょっと、一緒に自分たちで何とか島を使えるんじゃないか、と考えて、『ステイ・プロジェクト』とか『ランドスケープ・プロジェクト』というのを始めています。というのは、2008年に行ったときには58人の方が住んでいらしたんですけど、今はもう23人から25人くらいで、平均年齢も80歳くらい。そうはいっても最近は少しずつ若い人が移り住んだりもされ始めているんですが、それでも人が減っていまして、だけど定住の人だけ増やそうとするのはちょっと難しいので、私は1年に1か月くらい行っていたとか、1週間に1回来る人がいるとか、いろんな形でこの島にかかわれる人がいたらいいかなっていうのを、いまやろうとしています。
何ができるかわからないのですが、やっぱり犬島で活動していると、島が小さいから何かやるといろんなことが変わってくる。自分たちが住んでいる場所ってあまりにも大きいから自分が何かできると思っていなかったけれど、そんなことはないんだなって、大きいところだって少しずつ自分たちだって何かやれるんだって、もっと積極的にやるべきだっていうことを気づき始めました。それから建築っていうのがどこまで広がれるのかなと。一生懸命『中と外をつなぐ』と言っていましたけど、むしろ本当に大きな流れの中の一部であるから、それをどこまで大きく考えて作ったり、使ったりということを考えていけるのかなということを犬島のプロジェクトを通して考え始めて、一人ではとても無理なので、学生の方々とか、興味があるというグループの人たちと一緒にちょっとずつ活動しているというのが現状です。
これが電車から始まって、いま電車の銀色がどれほど私にとっては重要か、こういうような考え方に合うものをつくることができたので、嬉しく思っています。今日は声をかけていただき、どうもありがとうございました」
最後も西武鉄道の新型特急「Laview」とシルバーの塗装の話で講演をしめくくった妹島さん。
これまでの数々の作品の詳細な説明を通して、建築物そのものの美しさや機能性だけではなく、一貫してその環境に寄り沿うようなプロジェクトを手がけてこられたことが分かります。デザインで新しい価値を提供する、その考え方や視点はあらゆるもののデザインに活かせる内容だったのではないでしょうか。講演の後はセミナー受講者からの質疑応答となりましたが、興味深いお話の数々の後だけに、すべての質問にはとても答えきれないほどたくさんの手が上がります。妹島さんは時間の許す限り、会場からの質問にも答えてくださいました。
了
当社からの技術解説(高輝度金属調塗料、インクと塗料によるデジタル加飾)
基調講演の後には、当社製品・技術による意匠力アップ事例や取り組みをご紹介させていただきました。Laviewにも採用された強い金属感を表現できるシルバー塗料(高輝度金属調塗料)の用途展開や、インクと塗料を組み合わせ、質感まで含めた意匠性を表現できるインクジェット加飾システムをご提案いたしました。ご不明な点などございましたら、お気軽にお問合せくださいませ。(お問い合わせはこちら)
高輝度な金属調塗料による意匠力アップ
製品名:スーパーブライトNo.2000
一般名:めっき調シルバー塗料
用 途: 自動車内外装部品、弱電製品、プラスチック製品、その他様々な用途に適用可能
詳 細:スーパーブライトNo.2000の詳細はこちらから
立体感をもつ触感を表現できるインクおよび塗料による加飾技術
技術名:DNTデジタルコーティングシステム
一般名: インク及び塗料によるインクジェット加飾システム
用 途: 金属材、木質材、セメント材、 樹脂材、ガラス材など様々な基材に適用可能
詳 細:DNTデジタルコーティングシステムの詳細はこちらから