塗装の前処理として行う素地調整(下地処理)。「ケレン」はその素地調整の中でも重要工程である一方、明確な定義がなされておりません。本記事では、そのケレンの種類を簡単にご説明します。
当記事ではその一例として(公社)日本道路協会『鋼道路橋防食便覧 平成26年3月』に基づき、ケレンの種類をご紹介しております。実際の施工時には施主の定める基準に従う必要があります。
目次
ケレンの種類
素地調整(下地処理)の作業は、その作業内容や方法に応じて大きく1種ケレンから4種ケレンまでの4種類に分類されます。さびの面積や塗膜の割れ、膨れなど旧塗膜の状態からどの程度の素地調整を行うかを判断します。
下表のとおり、 1種ケレン や2種ケレンではさびや旧塗膜の除去面積が広く、その作業負荷やケレン残しによる再発錆といった課題が存在します。
当社における素地調整への取り組み 資料請求はこちらから[表]塗り替え塗装の素地調整程度
素地調整程度 さび面積※1 塗膜異常
面積※2作業内容 作業方法 1種 ー ー さび、旧塗膜を全て除去し鋼材面を露出させる。 ブラスト法 2種 30%以上 ー 旧塗膜、さびを除去し鋼材面を露出させる。ただし、さび面積30%以下で旧塗膜がB、b塗装系の場合はジンクリッチプライマーやジンクリッチペイントを残し、ほかの旧塗膜を全面除去する。 ディスクサンダー、ワイヤホイルなどの動力工具と手工具との併用 3種A 15~30% 30%以上 活膜は残すが、それ以外の不良部(さび、割れ、膨れ)は除去する。 同上 3種B 5~15% 15~30% 同上 同上 3種C 5%以下 5~15% 同上 同上 4種 ー 5%以下 粉化物、汚れなどを除去する。 同上 ※1 さびが発生している場合
※2 さびがなく、割れ、はがれ、膨れ等の塗膜異常がある場合出展:(公社)日本道路協会『鋼道路橋防食便覧 平成26年3月』p.Ⅱ-138
ケレンについてはISO規格も存在し、1種ケレンではISOで定めるSa2・1/2相当、2種ケレン及び3種ケレンの死膜部ではISO St3相当になります。
このように、ケレングレードについては各基準によって多少内容が異なりますが、一般的な土木分野での解釈としては以上のようになります。
1種ケレン:ブラスト法を用いてさびや旧塗膜を徹底除去
4種類の中で最もケレンの効果が優れているのがこの1種ケレン。さびや旧塗膜を完全に除去して鋼材面を露出させます。
細かい砂や金属片などを使った研磨剤を高い圧力で打ち付けて表面をみがく「ブラスト法」を用います。とにかく大掛かりな作業になるため、道路橋など大きな構造物に対してのみ行われます。
徹底してさびや汚れが落ちるので防食効果は抜群ですが、粉塵が飛び散る、騒音が大きいなど周辺への影響が大きいのが難点です。作業を行うときは足場に専用の養生をしっかりと施し、作業者の防護も必要となります。
2種ケレン:ディスクサンダーなどの動力工具を用いる素地調整
さびが発生している面積が30%以上とさびの状況が深刻な場合、この2種ケレンを用いてさびや旧塗膜を除去して鋼材面を露出させます。
2種ケレンはブラスト法ではなく、ディスクサンダーなどの動力工具や手工具を使ってさびや汚れを除去します。
職人の手作業で全てを行う2種ケレンは、橋梁など大規模な構造物の場合においては、鋼材面の面積も広く作業に時間がかかり費用も高くなるので実用的ではないとされています。
3種ケレン:活膜を残し、死膜は除去する
1種、2種はさびや汚れだけではなく旧塗膜をすべて取り除くことが前提ですが、3種は旧塗膜のうちしっかり密着しているものを「活膜」として残し、さびが発生している面やひび割れたり膨れたりしている旧塗膜を除去します。
さびが発生している面やひび割れたり膨れたりしている旧塗膜の面がどれくらいの割合であるかのさび面積・塗膜異常面積で3種A、B、Cの3段階に分けて考えます。作業自体は2種と同様に動力工具や手工具を使ってさびや汚れを除去します。
ちなみにひび割れたり膨れたりしている状態の旧塗膜は、「死膜」などと呼ばれます。
【3種Aケレン】さびが発生している面積 15~30%,塗膜異常面積 30%異常
【3種Bケレン】さびが発生している面積 5~15%,塗膜異常面積 15~30%異常
【3種Cケレン】さびが発生している面積 5%,塗膜異常面積 5~15%異常
3種ケレンはケレン面積に応じてA,B,Cの3つのランクに分かれますが、ケレン作業自体は同一となります。
4種ケレン:軽く目荒しする清掃ケレン
活膜は基本的に残し、それ以外のさびが発生している面やひび割れたり膨れたりしている旧塗膜を除去します。
全体的にダメージが少なく、さびも特に見当たらず、異常をきたしている塗付面が5%以下のケースで、汚れを落とし、軽く目荒しすることが主となります。目荒しとは、塗膜の食いつきをよくするために表面に凸凹をつけることです。作業自体は2種、3種と同様に動力工具や手工具を使用して行います。
1種ケレンから4種ケレン、どのケレンで行うか?
ケレンの種類の”定義”は、施主によって異なる
塗料の塗替えをする際には、施主側がケレンの種類を指定して発注するというのが一般的です。施主によってはケレンの定義も異なる場合があることに注意が必要です。
本来はまず足場を架設して全体の状況をつぶさに点検し、どのケレンを行うのか決めるべきですが、なかなかそこまで出来ないのが実情です。全体としてどれくらいのさび面積があるか、塗膜の不良部があるかを、目視調査等にておおよそ確認します。
塗膜劣化の程度は、部位ごとに異なる
塗膜の劣化は、ホコリが溜まりやすい場所が進みやすいといわれています。溜まったホコリはぐちゅぐちゅと水分を保つために他の場所より湿った環境になりやすく、さびやすいのです。また、鋼材の角の部分も平面に比べ塗料が塗りにくいために塗膜が薄くなり、やはりさびが発生しやすくなります。そういう場所は念入りにケレン作業を行うようにします。
場所ごとにさびや汚れの程度は異なりますが、とくにケレンの種類を部位ごとに変えることはしないのが一般的です。
[図]腐食マップ
出展:(公社)日本道路協会『鋼道路橋防食便覧 平成26年3月』p.Ⅰ-35
ケレン作業の用語説明(様々な「膜」について)
塗膜【とまく】
塗料を塗り、それが乾燥し固定され膜状になったものを塗膜といいます。塗料は液状ですが、塗ると膜になります。
この塗膜で構造物をしっかりコーティングし、様々なダメージから守る役割を果たします。
活膜【かつまく】、死膜【しまく】
ケレン3種では、旧塗膜の全てを除去することなく、一部の旧塗膜をあえて残します。その残す部分を「活膜」といいます。活膜は、密着が十分で、上から新しい塗料を塗っても支障のない良いコンディションを保っている部分です。
一方、「活きている膜=活膜」に対して「死んでいる膜=死膜」は、ひび割れたり膨れたりと何らかの異常状態にあり、防錆機能が失われた塗膜のことを指します。さびや汚れ等とともにケレン作業でしっかり除去する必要がある部分です。
剥離【はくり】
長い期間風雨や紫外線にさられて塗膜がはがれ落ちた状態を「剥離」といいます。ただし、ケレン作業をきちんと行わずに塗料を塗ってしまったときにも剥離は発生します。
DNTでは、技術に関する内容を中心としてメールマガジンを発行しております。
当記事の他にも、製品開発背景や活用事例など塗料、塗装、塗膜に関するお役立ち情報をお届けいたします。