塗料業界の動向を考察!塗料業界の今後の課題とあるべき姿【後編】

ものつくり大学名誉教授 近藤照夫先生 ご紹介
慶應義塾大学卒業、大学院修了後、清水建設株式会社で技術研究所主席研究員、横浜支店技術部長、技術開発部長等を歴任。現在も、ものつくり大学で教鞭を執られる傍ら、国土交通省、日本建築学会等の委員を多数務めておられます。

社内状況や環境の変化に対し技術革新が求められる建設業界。耐久性や保全性と同時に、環境対応や健康配慮といった課題解決が求められる塗料メーカー。この領域にまつわる見識が極めて豊富なものつくり大学名誉教授の近藤先生に、2019年以降の近未来に塗料が果たすべき役割について、引き続き、率直なお考えを伺いました。

塗料業界の動向を考察!災害増加時代における塗料の役割【前編】

2019年3月6日

人手不足や技術革新…変化する現場

――塗料に求められる最も基本的かつ重要な役割として、耐候性の付与ということを伺いました。建築構造物への塗装では現場塗装と工場塗装がありますが、建設業界における近年の変化をどのようにお考えでしょうか。

ものつくり大学名誉教授 近藤 照夫

日本はどんどん人口が減っていっている時代ですよね。とくに生産労働人口が減っています。ですから現場の作業をできるだけ減らして、生産性の向上を図る必要が生じています。

では、現場作業とはどういう作業なのか。最も基本的な建設材料であるセメントは、水で練られてそれが固まる。そこに砂や砂利を入れると、モルタルやコンクリートになります。他にも漆喰やプラスターなどいわゆる湿式の左官材料はウェットな状態で現場において練り混ぜられ塗り広げられた後に、硬化乾燥して出来上がります。このような現場作業を主体としたプロセスを経て、日本の建設業界は成長してきました。

ところが、時代の変化に伴って高品質なものや短工期が求められるようになり、かつ、エコロジカルがより強く求められるようになりました。その結果として、現場施工を減らす流れになりました。技術が変わらなくても工期はどんどん短くされる。そうするとどうなるかというと、「プレハブ化」ですよね。工場で作ったものを現場で組み立てる。プラモデルに似た作り方が主流になりつつあります。こうなると、現場作業より施工品質や安全性も向上して、環境の配慮にも有効になります。

高層建設のプレハブ化

―― 住宅は顕著だと感じます。街を歩いていても、工事が始まったなあと思っていて2週間ほど経つともう壁まで出来上がっていることが多く、そのスピードに驚きます

建設現場|大日本塗料

高層ビルも同じですよ。柱と梁を組み上げて、そこに床を張ってカーテンウォールという外壁を取付けて出来上がります。2,3階建ての床面積が小さい建築物なら、早ければ一週間くらいで構造躯体が立ち上がります。手間がかかるのは、住宅でも大型ビルでも基礎工事です。地下の工事をやっているときは外から見えないので、大型工事であればしばらくは動きがないように感じますが、地上の工程になると1~2年であっという間に出来ちゃうなんてことはよくあります。

鉄骨のプレハブ化については、工場で柱、梁を組み立てて作っていくという工法はもともとあるわけです。これは柔構造といって、地震が来たときに柔らかくエネルギーを逃してくれるため、超高層に使われます。片や鉄筋コンクリートや鉄骨鉄筋コンクリートはガチガチに硬い剛構造であり、地震に対しては踏ん張る力があるのである程度の高さまでは耐えられますが限界があり、一般的にはせいぜい20階建くらいの建築物しか作れません。

とはいえ、鉄筋コンクリートの方もいつまでも現場で型枠を組んで配筋して、そこにコンクリート打って…といった手間や時間をかけてやれる時代ではなくなりました。さらに、所定のコンクリート強度が出るまでは養生が必要で、型枠脱型もできません。そこで10年ほど前から鉄筋コンクリートの柱や梁も工場で作って、現場で堅固にジョイントして構造体を組み上げていくPCa工法を採用するケースが増えてきました。

―― そうしたブロックを組み立てるように建物ができるということは、塗装も工場で行われるのですね。

工業化住宅の工事で現場塗装があるとしたら、塗り替え改修工事です。高層ビルの改修では、ゴンドラで既存仕上げの上から塗っていく方法も有り得ます。ところが、ふっ素樹脂塗装の塗替え需要は今のところほとんどありません。以前の外装用塗料は熱硬化アクリル樹脂系が主流でした。私自身も全国各地で塗り替え工事に関わってきましが、ふっ素樹脂はなかなか劣化しないので、今のところ施工後20年経ってもまだ塗り替えという話は出てきていません。

→ 大日本塗料が推奨する建築外装用ふっ素樹脂塗料
→ 大日本塗料が推奨する構造物用ふっ素樹脂塗料

粉体塗料や水性塗料などの環境対応塗料の展開

―― 近年の高層ビルには見栄えのよいカーテンウォール多く用いられています。このカーテンウォールには粉体塗装が施されることが一般的ですが、環境対応塗料である粉体塗料の今後の展開についてはいかがお考えでしょう。

先ほどお話したように、新築工事では工場製造部材を現場施工によって構造体に取付ける乾式工法あるいは工業化構法が主流になり、工場で使う塗料も、環境に配慮して溶剤系から粉体系に切り替えようという機運が高っています。そのために、日本の建設分野では実績がほとんど無く評価データを保有していない材料に対する評価の研究をしたうえで、標準指針を作成して適切な普及展開を期待しています。

溶剤系塗料は、成分が飛散して環境に良くない、光化学スモッグの原因物質となる、ひいては人間にとって有害であるという理由などから、改修工事を除いては使われる場面が減ってきています。

―― 環境配慮といえば、他には水性塗料もありますね。

現場で使うのであれば、現在は水性塗料が主流になりつつあります。とはいえ、性能面や作業性からすべてを水性にすることはまだ難しいので、弱溶剤系で対応しているケースも多いのが実情ではないでしょうか。工場塗装においては、粉体、水性およびハイソリッドの特性を検討したうえで、建築材料には粉体塗料が最適であると判断して、その採用を考えました。

→ 大日本塗料が推奨する粉体塗料

AI、ドローンで「建てる」「維持する」

―― 人口減、環境問題への対応などから、今後、現場の機械化などは進んでいくことについてはどのようにお考えですか?

ゼネコンでは、既に30年ほど前から施工、検査の機械化や自動化については積極的に取り組んでいます。当時の技術では平面計画が簡単な矩形であれば、それこそプラモデルのように工場製造部材を持ってきてはめ込めばいいといった程度のものは考え出されていました。「自動化で建てたビル(全自動化施工ビル)」の考え方の礎ともいえます。今はさらにAIの考え方が加わり、ヒトの知識をビッグデータとして蓄積し、現場管理をできるようにするという範囲まで活用範囲が広がっています。

昔はわれわれが現場を歩いてチェックしていた施工品質の管理を大手ゼネコンではロボットで行う実用化事例も出てきています。インスペクション作業は、とても工数や手間もかかります。超高層ビルであれば上がったり下がったりが大変…。新入社員の年には現場を歩き回る時間が長く、1年で体重が10キロくらい痩せたこともありました。実際、インスペクションには機械化を進めるニーズも高く、同時に進めやすい分野だと思います。少子高齢化と人口減少により、保全の時代になっていますから、インスペクションの省力化は重要課題です。

また、ドローン活用も注目されていますが、今のところ、主な活用シーンは災害時の救助と応急復旧および点検作業であるとみています。人間であれば足場をかけないと点検できないようなところを自動カメラが人間に替わってチェックするという使い方は有効です。ドローンの活用は、土木分野では既に積極的な動きも出てきていますが、建築分野で使う場合には、作業員や通行人などに配慮しドローンの墜落による危険性なども慎重に考慮する必要があります。他にもプライバシーや騒音の問題もあり、飛ばしていいケースについては、法律で厳しく規制がされています。しかし、いずれは技術者なども養成されて、規制も緩和されていき点検・調査などの用途にはドローンの適用が増えていくでしょう。そもそも人間が足りないわけですから、ドローンやロボットの活用は不可欠になるでしょう。

例えば、熟練技術者が実際の対象物を叩いて、図面を見ながら「ここは、ひび割れ。ここは浮き。」なんて書込んでいたものを、ハンマーを自動で動かしてそのデータを地上のワークステーションに持ってくるという自動化システムは、既にもう実用化されています。

ドローン、AIによる建物の点検・診断の可能性

――「ここクラック」「ここ剥離」といいった点検データから「最適塗料はこれです」というソリューションも合わせて自動化されたら喜ばれそうですね。

それはそれほど難しくないことだと思います。実現すべきだと思います。塗料メーカーが今まで持っているデータをビックデータとして蓄積活用するのです。今やっていることを自動化するイメージで、実現してはどうでしょうか。積極的にやるべきです。

―― 人間の目で見るより、高性能なカメラを積んだドローンで丁寧に現場を撮影してそれを分析するほうがよいということですね。

そうです、それはもう動き出しています。点検の次は「診断」です。点検の結果を見てどう直すのかを診断するのは、現在の人間でも相当の経験がないとできないことです。

30年前からビルディングドクターという資格制度が作られており、しっかり勉強をして専門知識と経験で劣化や損傷を判断できる人を養成しています。なぜそのような制度ができたかというと1989年に、アルバイト作業員が点検をしたビル外壁の一部がその半年後に落下して、下を歩いていた人が3人死亡するというという事故が発生したからです。知識と経験がある人が見ていれば、剥落の危険性が分かったはずのものが見落とされていたのです。

今後はその熟練技術者のノウハウがビックデータとしてAIで活用されれば、人手不足で熟練技術者が減っても事故を起こさない点検・診断が可能になります。

―― でも最終判断は人間がしないといけませんよね?

タイル張りの外壁は落下すると人命に関わるものですが、塗膜の汚れや表面劣化は少し見苦しいだけで人命には関わりないので、「下塗りまで劣化していれば下塗りから、上塗りの表面劣化に留まっていれば上塗りのみの塗替えです」というようなカタチで、AIを活用した点検や診断の仕組みを検討して大いに進めるべきです。清水建設では懸垂式のロボットが外壁タイルをこする音で劣化診断する「ウォールドクター」を開発するなど、一部ではもう現場で実際の活用が進んでいます。

―― 最後に、研究技術畑の先生にお伺いします。塗料のことだけにこだわらず建設業界全体に関する技術開発としての課題はどうでしょうか?

いろいろな学問領域がありますが、特に建築は雑学が必要な分野であると言われます。社会に一番密接かかわっており、あらゆる分野の基礎学が必要となるからです。土木構造物にしても建築物にしても、同様であるかと思います。土木構造物というのはインフラなわけですから、世の中や環境の変化に網を張ってどういうふうに変えていかなければならないかを、常に考えていないと技術開発はできないと思います。建築物は民間発注が多いとはいえ、そのニーズは世界的な政治や経済、社会の変遷によって変化していますから、そのようなことに関する情報収集に注力して研究開発の方向性を考えていくことが重要です。大学の中だけで研究していてもうまくいかないので、現場をよく見て常に研鑽を積み重ねて技術開発をしていくことが重要になると考えています。

―― 先生ありがとうございました。

近藤先生ご登壇の”塗料による環境への配慮を考える”セミナー

DNT環境と塗料についてのセミナー2019 開催のお知らせ

2019年2月4日

近藤先生には、本年 4月に建築標準塗装仕様が3年ぶりに改定されたことを踏まえ「新たな時代に向けての建築塗装標準仕様の動向」をご講演いただきます。

このほか、当社の環境に配慮した製品設計・仕様策定に対する技術的な取り組みなど、塗料や塗装業界における最新動向をご紹介します。