ローラー塗装可能なメタリック塗料システムを確立!カーテンウォール塗り替え市場への挑戦

ローラーによる塗替え塗装でメタリック調の輝きを再現。メタリック塗料のローラー塗装が可能となることで、現地での塗替え改修により新築同様の外観となる。 2018年度色材協会賞・技術賞を受賞した当技術。 設計者やビルオーナーの思いに応えるため、不可能とされてきた課題に向き合った3人の開発者が、開発当時を振り返った。

【写真左】建築塗料事業部 テクニカルサポートグループ※1 坂井勝也
1998年入社。研究部を経て建築塗料を中心に活躍。水性さび止めなど多くの商品の開発に関わる。RBメタリック開発、導入に係る本プロジェクトでは主にユーザー向けの技術サポートを担当。

【写真中央】技術開発部門 研究部 研究第一グループ 分析・物性チーム※1 田邉祥子
2007年入社。研究部に所属し、物性解析2を担当。RBメタリックなど新商品開発にも携わる。ユーザー向け商品の技術解析の分野で実績を積む。二人の子をもつワーキングマザー。

【写真右】技術開発部門 開発部 技術開発第一グループ チームリーダー※1 甲斐上誠
1999年入社。主に建築塗料、構造物塗料の商品開発を担当してきた。上塗り、下塗り、水系、溶剤系まで幅広く網羅する建築塗料のスペシャリスト。マイティー万能エポシーラーの開発など歴任。

※1 それぞれの所属部署および役職は、執筆当時のものとなります。
※2 物性解析…塗膜や塗料に関わる流動性や塗膜の粘弾性、付着にかかわるところなど要素技術に関する解析。

開発背景:金属調物件の改修におけるカーテンウォールの現地塗装ニーズ

――まずRBメタリック開発の背景について教えてください。

<坂井>カーテンウォール市場における改修需要を取り込みたいということがあります。高層の建物でカーテンウォール、特に金属調でできたものには意匠に非常にこだわりをもって作られた物件が多い。ところが、金属調の物件を改修する場合、塗装方法が数少ないという問題がありました。それをどうにかできないかということで、現地で塗れるメタリック塗料の開発がはじまりました。

――メタリック塗装にはスプレー塗装しか方法が無く、ビルなどを現地で改修する場合は塗料飛散防止のための養生工数やコスト、周辺環境への配慮といった問題で竣工時のキラキラとした外観には戻らないと諦めてソリッドに塗るケースもあると聞きます。実際、現場からはどんな声があったのでしょうか?

<甲斐上>カーテンウォールというのは取り外しができることが特徴です。取り外して、工場に運んでスプレー塗装して現場に戻すということもできる。しかし、この工法では改修工期が延び非常にコストがかかるという問題が有りました。そこで、メタリック仕上げでの改修を現場施工でなんとかできないか?という課題に応えたのがRBメタリックです。

①工場でのメタリック塗装、②現場でのソリッド塗装、③現場でのメタリック塗装。今回の製品でこの3つ目の選択肢を提供することができるようになりました。

――今までの世の中にはこれがなかったわけですね。逆に今までできなかったのは、どんな理由があるのでしょうか?

<田邉>メタリック塗料には鱗片状のアルミの顔料(アルミフレーク)が入っています。その顔料がきれいに並ぶことにより光が正反射し、磨かれた金属のような光沢が得られます。ところが、アルミフレークをきれいに並べた状態に塗るというのが実はとても難しいのです。手作業でローラーなどを使って押し付けるように塗るとローラーの模様が移ったり、塗り重ねた部分でアルミフレークの並びが乱れてしまいます。これが今まで現地で施工できなかった理由です。したがって、アルミフレークの動きを制御することが今回の商品化に向けた一番のカギとなりました 。

メタリック感の良好な塗膜を得るには、アルミフレークを均一に配向させる必要がある

――なぜ今まで「ローラー塗装」では上手くメタリック感が出なかったのですか?

<田邉>従来のメタリック塗料はスプレー塗装を行うものとして設計されてきました。スプレー塗装では、塗料を細かい粒にして薄く塗装を重ねていくことでアルミフレークを並べていきます。最後に溶剤の揮発によりアルミフレークが固定化されます。しかし、このように設計された塗料をローラーで塗装すると、溶剤の揮発に伴いアルミフレークが流動するために並びが乱れてしまいます。

<甲斐上>メタリック塗料はスプレー塗装であってもソリッドに比べて塗装者による差が出やすく、熟練の塗装技術が必要な塗料です。ローラーで塗装するとなるとさらに課題は多くなります。
スプレー塗装では圧力を調整したり、揮発しやすい溶剤を使用したりといったやり方で、アルミフレークが動かないように微調整をしながら塗装することができます。一方ローラー塗装では、調整できるのは溶剤の希釈率くらいで、粘度でアルミフレークを固定しようとすると凹凸ができたりするなど常に均一な仕上がりにはなりません。

ローラー塗装を含め、様々な塗装に対応できるメタリック配向技術を確立

――塗るときの固さ、粘性にもいろいろな工夫があったのでは?

<田邉>粘度が高すぎるとローラー跡による凹凸や段差ができてしまい、そうなってしまったときのアルミフレークの乱れは直せません。そこで、RBメタリックは、極端な凹凸や段差ができないように工夫しました。塗料としての塗りやすさをしっかり保持しながら、粘度を付け過ぎない絶妙なバランスに仕上がる様配合を工夫しました。

<坂井>今回このメタリック塗料は、ソリッドカラーに比べると膜厚を薄くしても大丈夫という隠蔽力の強い塗料になっています。必要な膜厚を確保し、塗装時の作業性とアルミフレークの配向が良く、きれいな外観ができるように粘性をコントロールしました。

――RBメタリックのユーザーさんの声として、竣工時のメタリック意匠を取り戻したいものの、その当時の技術では工場塗装かソリッドカラーにするより他ないと諦めていたとお聞きしました。そんな中、RBメタリックを探し当て竣工当時の輝きを取り戻せた。本当に嬉しい。と仰っていたのがとても印象的でした。この他にもユーザーから聞こえてくる声は具体的にどのような内容でしょうか?

<甲斐上>メタリックに対する思い入れが強いユーザー様は多いと感じます。興味を持ってくださって「使ってみたい」と、選択肢のひとつとして入れたいと言って頂くお客様が増えているようです。

<坂井>これまでの案件については施主様にはご満足していただき、非常に喜んでいただいています。一方、施工業者様からは一定の塗装技術がないときれいに仕上がらないので、今日入ったばかりの新人が塗ってもきれいに仕上がるくらいにはなってほしいねとは言われますね。

既成概念を取り払うことで、商品開発が劇的に進展

―― 研究開発上での苦労は?

<田邉>この配合に至るまで様々な方法を試しました。最初は何をやってもなかなか上手くいきませんでした。既存の配合をベースとして検討を進め、様々なアイデアを取り入れていったのですが大きな変化が見られませんでした。ですがあるとき、塗装直後はメタリック感があるのに、乾燥後の塗膜ではメタリック感がなくなっているものがあることに気が付きました。これを良く観察してみると、塗装直後から塗膜の乾燥過程でアルミフレークが流動している様子が確認できました。乾燥過程で塗料の対流が生じていたのです。
それまで気付けなかったのは、既存の配合にある原料が入っていて、塗装直後からメタリック感がなくなっていたためです。言い換えると、ある原料が邪魔をして、何をやってもメタリック感が変わらなかったのです。

――邪魔しているものはどういうきっかけで見つかったのですか?

<田邉>あまりに何をやってもうまくいかず、半年くらい「うまくいかない」とずっと唸っていました。そこで、これまでの常識を排除して一から配合を組み立てようと考え直しました。当時、当たり前のように使っていたのが、その邪魔をしていた原料で…。つい、既成概念をもってしまい「なにかありき」で取り組んでしまいますが、既成概念を取り払うことで課題を解決することができました。

――邪魔なものが見つかったあとの段階ではなにが一番難しかったですか? 

<田邉>この塗料は、塗膜として乾いていく過程でアルミフレークが乱れないように塗料の対流を抑える技術を加えています。簡単に言うと、塗ったあとアルミフレークが徐々に流動しないよう、塗った瞬間がそのままキープできる工夫です。難しかったのは、この対流抑制と作業性とのバランスを両立させるところですね。

<坂井>アルミフレークの並び以外の点では、乾燥性の検証に力を注ぎました。実際に現場で使う中で出てきた課題として、アルミフレークを含んだ塗膜の乾き具合が良くないと、その上にクリヤー塗料を塗装したときに中のアルミフレークが動き、並びが崩れてしまう問題も生じました。この塗り重ねについては、他の塗料とは違って、気を使うところかなと思います。

――北は北海道から南は沖縄まで温度も湿度も違います。つまり気候条件による違いも塗料開発の主な課題かと思いますが如何でしょうか?

<田邉>気候条件による違いでメタリック感に違いがでないか確認したのは非常によく覚えています。たとえば風に吹かれてアルミが流れる可能性はあるのかと、いろいろ条件を変えて風を当ててみたり、温度を変更したり、機械を導入しながら、諸条件で実験しました。

<甲斐上>現場を想定して、気温や湿度、風による影響を観察したりしました。例えば、夏場の外壁の温度を想定してホットプレートを用いた塗装実験や、寒いところに関しては5℃での検証を行いました。

――実際に物件に施工したときの苦労話を聞かせてください。

<坂井>神戸のお客様のケースですが、昨年5月に「調査に来てほしい」と依頼を受けてまず状況調査をしました。もし施工するなら試験塗装をしたほうがいいですねということで、7月には試験塗装をし良い結果が得られ、次に、入札→価格設定→商品登録…とすべきことが次々と発生。9月に当社に発注が決まりましたと連絡があってホッとしたことをよく覚えていますが、一連の市場へのスピード感あふれる展開は、良い経験になりました。その際、このRBメタリックは塗装に対する制約が多いため、施工業者様との折衝もあり、新商品立ち上げから施工までの一連の流れが非常に濃い内容のプロジェクトでした。

メタリック意匠復活に向けた妥協なき取組み |神戸国際交流会館

2018年4月25日

塗装作業性の改善や新色開発など、今後も更なる改良に励む

――今後の課題や取り組みを教えてください

<坂井>先程も話題にでましたが、「塗り手による差」ですね。もう少し幅広い人に塗れるようにという課題があります。また、タッチアップに関する課題もあります。塗っている最中に傷ついたときの手直しというのが非常にしづらい塗料なので、そこが簡単にできればもう少し施工業者様の負担を減らせるという話は聞いています。ただ工場で塗装して現場で傷がついたときも全面塗り直ししないといけないので、メタリック仕上げには避けられないことだと思います。
次に、高層建築物を塗り替える場合、ゴンドラだけでできないときは足場を組むことになります。その場合足場を固定する部分があるのですが、そういうところの補修を短期間でできるような工法を開発したいです。

<甲斐上>今はブロンズカラーの開発をしています。カラー展開についてもお客様からの要望がありますね。

<田邉>この塗料のいいところは顔料の種類に依らないということです。ですから、お客様がこういう色、色調がいいとか、メタリック感についてももっとキラキラした感じとか、抑え目がいい等、意匠についての細かな要望を頂いたとき、比較的柔軟に対応できるポテンシャルが高い点も特徴です。

――今まで経験した印象的なプロジェクトについて、それぞれ教えてください。

<甲斐上>苦労した経験は数多くあります。中でも、溶剤系の塗料を水系にしようというプロジェクトの中で、現場で艶を調整できるという機能を加えた結果、大手他社が真似できないスペックが実現した「水性ビルデック」の開発がとても印象深いです。この塗料が画期的だったのは“艶ありの白”と“艶なしの白”と色ネタを持っておけば、淡彩色ならどんな色艶でも自在に作れるという点です。つまり、現場で色だけでなく艶もお客様の要望に合わせられます。このようなコンセプトで提案した製品が市場に好評だったというわけです。

<田邉>私は何でも屋さん的なところがあり、携わっている商品はかなりたくさんありますが、その分、内部仕事の比率が高い状況です。そんな中、入社3年目くらいのときにあるメーカー様と付着性に関わる技術について議論したときのことが印象的です。実は非常に難しい機構に関するテーマでしたが、技術課題が達成でき塗料の機構の技術詳細を説明したところ、深く納得していただいたときの達成感は今でも忘れません。それが今でもモチベーションになっていて、要素技術を開発する楽しさが増しました。

――今後やってみたいことはありますか?

<田邉> やってみたいことと、やらなければならないこと、沢山あります。やってみたいこととして、物性に関する社内プログラムを作り上げたいというという目標があります。
また、これまで内部で開発の仕事を中心に担当してきたのですが、今後はもう少し外に出てお客様に近いところで仕事がしたいなと思っています。あと、女性目線のプロジェクトを立ち上げてみたいとも思っています。

<甲斐上> これからも広く社会に貢献できる塗料の開発を行っていきたいと考えています。環境にも塗装者にもやさしい塗料設計を目指していきます。また、今後は後進の育成にも力点を置くつもりです。

<坂井>常にお客様目線に立ち、独自の発想でより良い商品を提案できるように努めていきます。まずはRBメタリックを様々なお客様に塗装していただけるようにサポートしていきます。

ローラー塗装でメタリックの輝きを表現できる建築用ふっ素樹脂上塗塗料 が色材協会賞・技術賞を受賞

2018年9月7日